超伝導磁石を支える、絶縁と樹脂。ITERのコイル製造に見る企業の接点

強い磁場を作るには、導体だけでなく絶縁と構造の一体化も必要だ。ITERのリングコイル製造を例に、模擬巻線、樹脂含浸、硬化中の監視から、材料・設備企業が関われる仕事を整理する。

FUSION INDUSTRY掲載日 2026-10-12更新 2026-10-12
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白い絶縁材で包まれたPF5の巻線を製造する作業者
PF5の巻線製造(2018年7月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

THE TAKE

樹脂・絶縁材料・成形設備の企業が、核融合磁石の製造工程との接点と確認事項を把握するため。

WHY IT MATTERS

樹脂・絶縁材料・成形設備の企業が、核融合磁石の製造工程との接点と確認事項を把握するため。

核融合の超伝導磁石というと、強い磁場を生み出す金属材料に目が向きやすい。だが、導体を巨大なコイルへ仕上げるには、電気を通してはいけない場所を絶縁し、巻線を一体の構造として固める工程が欠かせない。ITERのポロイダル磁場コイルの製造記録から、樹脂・絶縁材料・製造設備を扱う企業の接点を見ていこう。

電気を通す導体を、絶縁材で包む理由

ポロイダル磁場コイルは、トカマクの周囲に水平に配置されるリング状の磁石で、プラズマの形や位置の制御を担う。ITERの超伝導導体は、細い線を束ねて鋼製の管に収め、その内部をヘリウムで冷やす構造だ。ITERの磁石解説

電流を流す導体であっても、隣り合う巻線の間などには電気が勝手に流れないようにする必要がある。そこで製造では、ガラス繊維の絶縁テープを巻き、樹脂を含ませる工程が組み込まれる。超伝導線材だけで磁石が完成するわけではない。

2018年7月23日のITER報告は、PF5と呼ぶコイルの巻線作業を紹介した。導体を二つの巻取り装置から同時に送り込み、回転する台上で二層の平たい渦巻き状にする。この単位が「ダブルパンケーキ」だ。写真は当時の製造現場であり、現在進行中の作業を写したものではない。PF5の製造工程

本番の前に、銅の模擬巻線で工程を確かめる

大きなコイルを作る設備は、それ自体も開発対象になる。ITERが2018年4月9日に紹介したPF5用の模擬巻線は、実機と同じ大きさを再現しつつ、費用を抑えるため超伝導材料の代わりに銅を使ったものだ。

模擬巻線では、曲げ方や樹脂の注入時間などを詰め、製造手順を確かめた。製品の材料を単純に置き換えてよいという話ではなく、どの工程を検証したいかに応じて、試験体を設計した例である。模擬巻線による工程検証

樹脂メーカーや設備メーカーにとって重要なのは、材料の仕様だけでなく、実際の大きさや形で施工できるかという問いだ。小さな試験片で良好な結果が出ても、巨大な巻線全体へ同じように樹脂が届くとは限らない。試験体、治具、施工条件を合わせて考える必要がある。

銅製の模擬巻線の表面を点検する作業者
工程検証用の模擬巻線(2018年4月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

樹脂を流し込み、絶縁と剛性をつくる

「含浸」とは、材料の隙間に液体を行き渡らせること。ITERの製造工程では、巻線を専用の型へ収め、真空と圧力を使ってエポキシ樹脂を含ませ、その後に硬化させる。英語のVacuum Pressure Impregnationを略してVPIと呼ぶ。

樹脂は絶縁テープの隙間を満たし、電気絶縁を確保すると同時に、巻線を剛性のある構造へまとめる。個々のダブルパンケーキを処理してから積み重ね、接続した全体にも含浸を行う流れだ。製造設備と工程の解説

ただし、全ての場所を固めればよいわけではない。2018年のPF5の説明では、後で電気的に接続する導体端部へ樹脂が結び付かないように、処置を分けている。材料、型、接続部の設計が互いに関係する仕事である。

コイルへの樹脂含浸に使う型を組み立てる作業者
樹脂含浸用の型(2018年4月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

注入して終わりではなく、硬化まで見守る

2021年1月25日のITER記事は、PF4のダブルパンケーキへの含浸を、約100個のセンサーで監視する様子を伝えた。温度、型内の真空状態、注入圧力を追いながら工程を進めている。含浸中の監視

さらに2022年7月25日のPF4全体の含浸報告では、2,700リットルの樹脂を使用し、硬化工程を昼夜の交代勤務で監視したとされる。これは当該コイルの条件であり、他の磁石へそのまま適用できる標準手順ではない。硬化工程の記録

製造後には冷却して挙動を確かめる工程もある。公式の製造記録では約80Kでの冷却試験が紹介されるが、これは約4Kの超伝導運転そのものを実証したという意味ではない。何を確かめる試験かを、温度の数字とセットで読むことが大切だ。

PF4の樹脂含浸工程を複数の画面で監視する担当者
PF4の含浸工程を監視(2021年1月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

企業が提案できるのは、材料と施工をつなぐ仕事

欧州が現地で製造した4基の大型リングコイルは、2021〜2024年に完成した。ここで取り上げた写真と工程は、その製造実績を学ぶための記録であり、新しい発注の告知ではない。

事業上の接点として考えられるのは、絶縁材料、樹脂の混合・注入設備、専用の型、加熱・監視設備、工程記録の管理などだ。これは公開事例からの編集上の考察である。参入時には、必要な耐電圧や使用環境、材料の組合せ、施工可能時間、検査方法、試作費用の負担を個別の仕様書で確かめたい。

核融合の磁石づくりには、電気を通す技術と、確実に絶縁する技術の両方が要る。素材を供給するだけでなく、大型部品へ再現性よく施工する能力にも、企業の経験を生かす余地がある。

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