研究成果

Qが大きいと、電気もたくさん売れる? 核融合の数字を三段階で読む

核融合出力、発電端の電力、送電できる正味電力。実験の成果を事業の可能性へつなぐために、測る範囲の違いを押さえる。

FUSION INDUSTRY掲載日 2026-10-07更新 2026-10-087 MIN READ
D–T核融合の熱を電気に変える概念図。中性子のエネルギーをブランケットと冷却材が熱として回収し、熱交換器、タービンと発電機を経て電力を得る。所内消費を差し引いた電力を系統へ送る。
概念図:熱の回収から発電、送電までには複数の変換・設備が必要となる。正味の送電電力は発電端の電力から所内消費電力を差し引いて評価する。FUSION INDUSTRY 編集部作成(概念図)

核融合の発表には「出力」「利得」「正味」という言葉がよく出てくる。同じ数字に見えても、プラズマだけを測ったのか、熱を電気に変えた後なのか、設備が使う電力まで差し引いたのかで意味が変わる。発電事業として読むには、エネルギーが施設を通過する順番を追うと理解しやすい。

第一段階:プラズマの利得Q

磁場閉じ込めの文脈で使われるQは、核融合反応で生まれる出力を、プラズマへ与える外部加熱の出力で割った値だ。ITERは50メガワットの加熱入力に対して500メガワットの核融合出力を得る、Q=10を目標としている。これは設計目標である。ITERのQに関するFAQ

この50メガワットは施設全体の購入電力ではない。加熱装置の変換損失に加え、冷却、磁石、真空、制御などの消費も別にある。そのため、Q=10を「使った電気の10倍を送電できる」と読むことはできない。他の方式の利得と比較する場合も、まず分母に何を含めたのかを確かめたい。

第二段階:熱を回収し、電気へ変える

熱利用型のD–T発電炉では、核融合で生まれたエネルギーを壁やブランケット側で熱として受け取り、冷却材を通じて発電系へ運ぶ。熱交換器やタービンなどを経て電気をつくる際には、熱のすべてを電気に変えられるわけではない。冷却材の温度や材料の耐久性も、発電系の設計に関わる。ITERの熱・発電解説

なお、ITER自身は発電設備を持たず、回収した熱を外へ捨てる計画だ。熱回収の実験が進むことと、タービンを回して送電したことは、別の成果として読む必要がある。

浜岡原子力館の屋外に展示された旧新名古屋火力発電所3号機の低圧蒸気タービンローター。大型の羽根列と軸が見える。
参考写真:新名古屋火力発電所3号機で使われた低圧蒸気タービンのローター。浜岡原子力館の屋外展示、2014年9月21日撮影。核融合設備ではない。 掲載用に縮小・圧縮。写真:Qurren, “Hamaoka Nuclear Exhibition Center Shin-Nagoya Thermal Power Station Unit-3 low pressure steam turbine rotor 1”, CC BY-SA 3.0 · 利用条件

第三段階:所内で使う電気を差し引く

発電機がつくる電力を発電端出力、そのうち設備自身が使う分を引いて外へ送れる電力を、ここでは正味電力と呼ぶ。冷凍機やポンプの効率を改善する仕事は、核融合反応そのものを強くしなくても、正味電力の改善につながり得る。

例えば、発電端で200メガワット、所内消費が80メガワットなら、差し引きは120メガワットになる。これは定義を説明する仮の計算であり、特定の装置の性能や予測ではない。比較時には、起動・停止時の消費も含むのか、瞬間値か運転期間の平均かも揃えたい。

同じ仮の設備を、出力と電力量で見直す

先ほどの仮の設備が、発電端200メガワット、所内消費80メガワットの一定条件で10時間動いたとする。発電した電力量は2,000メガワット時、設備が使った電力量は800メガワット時で、差し引きは1,200メガワット時になる。ここでは起動・停止の消費や送電損失などは含めていない。どこまでを差し引くかは、数字を示す際に明記する必要がある。

この例の120メガワットは運転中の出力で、1,200メガワット時は10時間で積み上げた電力量だ。運転時間が分からなければ、片方からもう片方は求められない。発表にピーク出力だけが示されている場合、年間の供給量を計算する材料はまだ足りない。装置が止まっている間の消費や保守期間も含めるなら、さらに長い時間の記録が要る。

熱の出口には、複数の仕事がある

ブランケット、熱交換器、発電設備は、いずれも熱に関わるが役割が違う。ブランケット側ではエネルギーを熱として受け取り、熱交換器は一方の流れから他方へ熱を渡す。発電設備は、その熱を使って電気をつくる。各段階で必要な温度や流量を合わせる仕事が、プラントの統合である。

したがって、熱交換器の採用を考える企業にとっては、核融合出力の大きさだけでなく、どの冷却材がどんな条件で流れ込む設計かが重要になる。タービン側の担当者なら、熱の供給がどのように時間変化するかも確認したい。ここで扱うのは熱利用型の説明であり、直接電力回収を目指す方式に、そのまま同じ機器構成を当てはめることはできない。

「正味」の境界線を一本描く

説明資料に施設の絵があれば、電力の出入口に線を引いてみるとよい。加熱装置へ届くエネルギーを測っているのか、発電機の端子なのか、系統との接続点なのか。測定境界が異なる数値を混ぜると、同じ設備でも評価が変わって見える。実測か計算かを区別し、同じ期間・同じ範囲の入力と出力を並べる。これは性能を疑うためではなく、何が達成されたかを正確に理解するための基本動作だ。

ITERのプラズマ利得Qの概念図。外部からプラズマへ入れる加熱50 MWに対して核融合出力500 MWを目指すため、Qは500を50で割った10となる。全て目標値で未達成。施設の消費電力は分母に含まれず、ITERは発電・送電しない。
ITERのQはプラズマへ入れた加熱と核融合出力の比。核融合発電所全体の正味電力とは測る範囲が違う。図中の数値はITERの研究目標で、実績ではない。FUSION INDUSTRY 編集部作成(概念図)

事業の評価には、さらに「時間」が要る

瞬間の正味出力が大きくても、部品交換で長く止まれば年間の供給電力量は減る。熱出力から売電収入までを見るには、運転時間、計画保守、想定外停止、交換部品の費用が必要だ。公開発表でこれらが示されていなければ、正味電力の達成だけから経済性を結論づけることはできない。

編集部の読み方は、数字の横に「範囲・単位・継続時間・実測か目標か」の四点を書き添えることだ。核融合出力の単位MWと、一定時間に生み出したエネルギーの単位MWhも区別する。次にエネルギー利得の基礎とブランケットを読むと、物理とプラントの接点を追いやすくなる。

出典・一次資料

確認日:2026-10-07
一次資料に基づくオリジナル解説。実績・開発目標・編集部の考察を区別して記載。