トカマクを知る:実験の蓄積と巨大な供給網を、発電へつなぐ

核融合の研究・製造経験が厚く蓄積したトカマク。磁場の仕組みからITER、JT-60SA、高温超伝導、参入の接点までを読み解く。

FUSION INDUSTRY 編集部掲載日 2026-10-08更新 2026-10-086 MIN READ
建屋内の上方から見たJT-60SA本体。円筒状の装置の周囲に配管、架台、作業通路が広がる。
茨城県那珂市のQSTに設置されたJT-60SA。2023年10月24日公開のF4E記事掲載写真(撮影日不明)。写真:© F4E/QST/Fusion for Energy · 利用条件

トカマクは、核融合の研究蓄積と、大型機器を実際に作ってきた供給網を併せ持つ方式だ。JETの重水素・トリチウム実験、日欧のJT-60SA、建設中のITER、民間の高磁場装置へと、知見を受け渡す具体的な道筋がある。産業として核融合を理解するなら、まず押さえたい軸である。ただし、実験の成熟と、電力を安定供給する発電所の完成は別の段階にある。

二つの磁場で、熱いプラズマを包む

トカマクの中心にはドーナツ状の真空容器がある。外部のトロイダル磁場コイルが輪に沿う磁場を作り、輪の中を流れるプラズマ電流が別方向の磁場を作る。両者を重ねて磁力線をらせん状にし、電荷を持つ粒子が容器の壁へ逃げにくい状態をつくる。ポロイダル磁場コイルは、プラズマの位置や形の制御にも使われる。

中心ソレノイドは、変化する磁束によってプラズマに電流を誘起する役割を担う。加熱には電流による抵抗加熱に加え、中性粒子ビームや高周波の電磁波を使う。磁石で閉じ込めること、熱を入れること、状態を測ることは別々の仕事であり、同期して初めて装置として働く。ITERによる原理解説

トロイダル磁場コイルの磁場とプラズマ電流の磁場を重ねて閉じ込める機能図。加熱・計測・制御・排熱も示す。
トカマクで磁場をつくる機器と、運転を支える機器の機能関係。原理解説用の概念図であり、実機の配置・縮尺は示さない。図:FUSION INDUSTRY 編集部(原理解説用)

強みは、実験結果と大型装置の経験がつながること

英国JETは2023年の最終D–T実験で、約5秒の高出力運転により69 MJの核融合エネルギーを生み出した。発表は2024年2月。これは電気の販売量でも、施設全体のエネルギー黒字でもないが、実際のD–T燃料を使う大型実験の重要な蓄積である。UKAEAの成果発表

日本のJT-60SAは、燃焼プラズマを研究するITERを支援し、将来の高性能運転に必要な知見を調べる装置だ。QSTとF4Eは、2026年2月27日に増強後の統合試験運転を始めたと発表した。こうした段階的な検証が、加熱、制御、真空、冷却を組み合わせる経験になる。JT-60SAの統合試験運転

ITERでは2026年7月28日、9基のうち6基目のセクターモジュールを据え付けた。約1,100トンのモジュールを扱う規模に、精密な組立が重なる。「炉心を構成するセクターの3分の2が所定位置に入った」成果であり、発電所全体が3分の2完成したという意味ではない。ITERの据付報告

Q=10を、発電量10倍と読まない

ITERの代表的な研究目標は、プラズマへの外部加熱50 MWに対して核融合出力500 MWを得ること。この比がプラズマ利得Q=10である。分母は施設の受電電力すべてではなく、分子も送電端の電力ではない。ITERには発電・送電の役割がない。ITERの研究目標

発電所では、核融合の熱を電気へ変える際の損失に加え、加熱装置、冷凍機、ポンプなどの消費を差し引く。十分なQと、正味電力、年間の稼働率はそれぞれ確かめる必要がある。ニュースの「出力」がどの地点で測られたものかを見るだけで、計画の読み違いは大きく減る。プラズマ利得と工学的収支の違い

ITERのプラズマ利得目標、NIFの2025年4月のターゲット利得、発電所全体の正味電力の三つの境界を示す図。
プラズマ利得、ターゲット利得、発電所の正味電力の測定範囲を分ける。数値の大小を方式間の順位にしない。図:FUSION INDUSTRY 編集部(原理解説用)

磁石の内側にも、外側にも事業がある

磁石では、超伝導線材だけでなく、導体の接続、巻線、絶縁、支持構造、検査が価値を持つ。強い磁場に伴う電磁力に耐え、冷却した状態で設計どおりの位置と形を保たなければならない。三菱重工はITERのトロイダル磁場コイルとダイバータに、米General Atomicsは中心ソレノイドの製作に関わってきた。三菱重工の機器開発/General Atomicsの製作実績

高温超伝導を使う小型・高磁場路線も進む。Commonwealth Fusion Systems(CFS)はSPARCを建設し、その先に発電プラントARCを置く。2026年8月の同社説明では、Q>1はこれから達成する目標である。線材・磁石単体の試験成功を、SPARCの核融合利得達成へ置き換えることはできない。CFSの開発段階

日本の供給網では、古河電工とグループ会社SuperPowerの高温超伝導線材、Tokamak Energyの磁石技術を結ぶ協業がある。炉を丸ごと造る企業だけが市場の主体ではない。線材の長尺化や均一性、巻線後の性能、検査工程まで、部品が大型機器になる過程に参入の接点がある。古河電工の協業発表

ITER中心ソレノイド用の導体を円形に巻く製造設備と、その両側で作業する技術者。
General Atomicsで進むITER中心ソレノイドの巻線製造。2016年4月5日撮影。写真:General Atomics/Oak Ridge National Laboratory, “Building the heart of ITER: The Central Solenoid”, CC BY 2.0 · 利用条件

残る課題は、長く動かし、熱を逃がし、交換すること

トカマクはプラズマ電流の急変を伴うディスラプションへの対策が重要だ。誘導で電流を流す運転には持続時間の制約があり、長時間化には外部電流駆動やプラズマ自身が生む電流の活用を含めた運転設計が求められる。発電に向けては、制御に使う電力も収支に入る。

一方、燃料のトリチウムを循環させ、中性子の熱を取り出し、傷んだ機器を交換する課題は多くのD–T方式に共通する。京都フュージョニアリングはプラズマ加熱、燃料サイクル、ブランケット・熱サイクルを開発している。試験ループでの熱回収や燃料処理の成果は重要だが、それ単独で核融合炉全体の発電を実証したことにはならない。京都フュージョニアリングの開発領域

暗い背景の上に並べられた、銅色の板と円形の開口部を持つ2点のマイクロ波伝送部品。
ITERの電子サイクロトロン加熱用伝送路に使われる高出力マイクロ波部品。2018年2月5日撮影。写真:US ITER/Oak Ridge National Laboratory, “High power microwave components”, CC BY 2.0 · 利用条件

工程表は、年よりも「何を確かめるか」で読む

ITERのBaseline 2024は、研究運転開始を2034年、D–T運転開始を2039年とする計画を示した。2026年6月の理事会も同ベースライン下の進捗を確認している。予定年は確約ではなく、製造品質、組立、試運転、許認可と結び付く。民間計画がより早い目標を掲げる場合も、初プラズマ、Qの達成、熱回収、正味送電を分けて追いたい。工程の公表資料/2026年の理事会報告

他方式と比べるときの三つの視点

ヘリカル/ステラレータは、閉じ込めを大きなプラズマ電流に依存しない設計に強みがあり、レーザー方式は燃料ターゲットで点火と利得を実証している。比較すべきは、一つの記録を並べた順位ではない。どの条件を実験で確かめたか、発電所へ拡張したとき何が難しくなるか、その課題に自社の技術がどう入るか、の三点だ。

トカマクは、大型装置の研究・製造経験を起点に具体的な供給先を探しやすい。受注を考える企業は、要求性能だけでなく、品質保証、検査記録、保守性、納期を含む調達条件まで読む。その蓄積を、次の装置で再利用できる形にすることが産業化への一歩になる。

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