プロジェクト解説

ITERとは? 500 MW・Q=10の意味と、建設の現在地

ITERは発電所ではない。燃焼プラズマの目標、2026年の機器搬入・据付、研究運転とD-T運転の予定を整理し、産業に残る技術課題を読む。

Fusion Industry掲載日 2026-10-07更新 2026-10-086 MIN READ
2018年4月のITER建設現場の記録写真。建設中の円形コンクリート構造、鉄骨、足場が見える。現在の進捗写真ではない。
ITERトカマク複合施設の建設現場。2018年4月撮影の記録写真。 掲載用に横長トリミング・縮小・圧縮。写真:ITER Organization/Oak Ridge National Laboratory, “ITER Site”, CC BY 2.0 · 利用条件

ITERは何を実証するのか

ITERは、フランス南部で建設が進む国際協力の核融合実験炉だ。日本、欧州、米国、中国、インド、韓国、ロシアの7極が参加する。中心的な課題は、重水素と三重水素の反応で生まれる熱が、プラズマ自身の加熱を大きく担う「燃焼プラズマ」を調べること。巨大な磁石、加熱、冷却、燃料取扱い、遠隔保守などを一つの装置として機能させる研究でもある。ITER公式概要

「500 MW」と「Q=10」を正しく読む

目標の500 MWはプラズマ内の核融合出力であり、発電機から取り出す電力ではない。外部からプラズマへ入れる50 MWの加熱に対して、核融合出力を10倍にするというのがQ=10の意味だ。加熱装置の効率、冷凍機、ポンプなど施設全体の消費電力を含む収支とは異なる。ITERにはこの熱を商用電力として供給する目的はなく、Q=10達成を「電気が10倍に増える」と説明するのは誤りとなる。ITERの技術目標

ITERのプラズマ利得Qの概念図。外部からプラズマへ入れる加熱50 MWに対して核融合出力500 MWを目指すため、Qは500を50で割った10となる。全て目標値で未達成。施設の消費電力は分母に含まれず、ITERは発電・送電しない。
概念図:ITERの目標は外部プラズマ加熱50 MWに対する核融合出力500 MW、すなわちQ=10。2026年10月7日確認時点で未達成の研究目標であり、施設全体の電力収支を意味しない。ITERは発電・送電を行わない。FUSION INDUSTRY 編集部作成(概念図)

どうやって動かすのか

超伝導磁石がつくる磁場でプラズマを閉じ込め、外部加熱で核融合に必要な状態へ近づける。燃焼が進むと、反応で生じるヘリウムの原子核がプラズマを加熱する。一方、周辺へ流れる熱や粒子を扱うダイバータ、機器を守る遮蔽、放射線環境下の計測と保守が欠かせない。炉内でトリチウムをつくる技術も試験するが、試験用ブランケットの検証と、発電所全体の燃料自給達成は別の到達点だ。技術の統合と燃料増殖試験

ITER中心ソレノイド用の導体を円形に巻く製造設備と、その両側で作業する技術者。
General Atomicsで進むITER中心ソレノイドの巻線製造。2016年4月5日撮影。 掲載用に縮小・圧縮。写真:General Atomics/Oak Ridge National Laboratory, “Building the heart of ITER: The Central Solenoid”, CC BY 2.0 · 利用条件

燃焼プラズマで研究が変わる理由

外部の加熱を増減して制御する実験と比べ、燃焼プラズマでは反応そのものが大きな熱源になる。そのため、閉じ込め性能、自己加熱、粒子の動きが互いに影響する。反応で生じたエネルギーが意図した場所へ届くか、熱が逃げすぎないかを確かめることが重要になる。ヘリウム原子核による自己加熱が大きくなっても、外部加熱が完全に不要になったことや、施設全体で電力が余ることを自動的に意味しない。自己加熱の公式解説

概念図:熱の回収から発電、送電までには複数の変換・設備が必要となる。正味の送電電力は発電端の電力から所内消費電力を差し引いて評価する。 FUSION INDUSTRY 編集部作成
概念図:熱の回収から発電、送電までには複数の変換・設備が必要となる。正味の送電電力は発電端の電力から所内消費電力を差し引いて評価する。 FUSION INDUSTRY 編集部作成

2026年10月7日時点の建設状況

2026年7月28日には、9組あるセクターモジュールの6組目の据付が終了した。さらに10月2日には9個目で最後の真空容器セクターが到着し、ITER機構は10月5日に主要炉心機器が現地にそろったと報じた。ただし、同発表の「主要炉心機器」にはダイバータやブランケットなどの炉内機器は含まれない。搬入完了は、全装置の組立完了や運転開始を意味しない。据付の発表/最後のセクター到着

日程は「計画」として読む

2024年に示された新しい工程では、研究運転開始を2034年、全磁気エネルギーでの運転を2036年、重水素・三重水素運転の開始を2039年に置く。以前の「2025年初プラズマ」とは、機器のそろい方も初期運転の内容も変わった。2026年6月の理事会発表もBaseline 2024に沿った進捗を報告している。これらは将来の予定で、燃焼実績や発電開始日ではない。工程の公式説明/2026年理事会発表

また、2039年という年はD-T運転期の「開始」を指す。その日に目標出力やQ=10を達成する、という意味ではない。建設、個々の設備の試運転、全体を組み合わせた試運転、研究運転、燃料を変えた実験を区別する必要がある。日程を比較する際には、年だけでなく「その年に何をできる状態にするのか」を確認したい。

産業への意味と残る課題

ITERでは、各極が分担して製作した機器を現地で組み上げる。日本ではQSTが国内機関を担う。産業にとっての成果は、超伝導、溶接、精密計測、大型輸送などを厳しい品質条件で実現する経験だ。JT-60SAの運転研究と合わせ、原型炉設計に知見を渡していく。ただし、保守頻度、稼働率、燃料自給、発電コストまでをITERだけで解決するわけではない。企業の参入を考える際は、技術的な関連性と、実際に公募されている調達機会を分けて確認する必要がある。

次の進捗をどう見極めるか

建設段階では、残るモジュールの据付と接続、炉内機器の製作、各プラント設備の試運転が具体的な確認点になる。実験段階に入れば、プラズマの状態、運転時間、自己加熱の割合、機器の熱負荷などを組み合わせて評価する。いずれも、搬入した機器の個数だけでは判断できない。

設計の変更にも産業上の意味がある。2024年の工程見直しでは、プラズマに面する第一壁の材料をベリリウムからタングステンへ変更する方針が示された。研究目的との整合性を高める判断が、材料、接合、製造、試験に関する仕事を変えていく。こうした技術条件と、正式な調達仕様・契約を結び付けて読むことが、産業動向を見極める鍵になる。本稿はITER機構による監修を示すものではない。