高市首相はなぜフュージョンエネルギーを推すのか 担当相時代から続く「産業化」への道筋

高市早苗首相のフュージョン政策への関与を、担当相時代の国家戦略づくりから首相としての研究開発支援までたどる。産業協議会、税制、複数年支援の具体策と、企業が確認すべき実務を整理する。

FUSION INDUSTRY掲載日 2026-10-16更新 2026-10-16
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JT-60SA実験棟で中性粒子ビームユニットを吊り上げる設備整備作業
JT-60SAの中性粒子ビームユニット(2024年12月)写真:© Fusion for Energy(F4E) · 利用条件

THE TAKE

フュージョン分野への政策支援を事業機会につなげるには、発電実証の目標に加え、研究開発支援、試験設備へのアクセス、調達条件を読み解くことが重要だ。高市氏の関与を具体的な政策手段からたどると、企業が次に確認すべき接点が見えてくる。

WHY IT MATTERS

フュージョン分野への政策支援を事業機会につなげるには、発電実証の目標に加え、研究開発支援、試験設備へのアクセス、調達条件を読み解くことが重要だ。高市氏の関与を具体的な政策手段からたどると、企業が次に確認すべき接点が見えてくる。

高市早苗首相のフュージョンエネルギー政策への関与は、首相就任前の科学技術政策担当相時代にさかのぼる。日本初の国家戦略をまとめる議論に継続して参加し、研究開発だけでなく、企業の参入、供給網、安全確保、人材育成を一体で進める方針を示してきた。強い後押しの意味は、将来の発電への期待と、現在の日本企業の技術を産業につなげる視点の両方にある。ただし、政策支援と商用発電の実現は別の段階だ。

「研究」から「産業」へ。関与の出発点は担当相時代

内閣府の現職一覧は、高市早苗氏を内閣総理大臣として掲載している。一方、核融合政策での具体的な関与をたどる際には、首相としての立場と、岸田内閣で科学技術政策を担当していた時期を分けて見る必要がある。内閣府・大臣一覧

2022年9月30日、第1回核融合戦略有識者会議に出席した高市担当相は、ITER計画などで蓄積した日本の技術を商業化へつなげ、官民が協力する必要性を示した。国内の研究成果を、企業が参加できる産業の土台へ育てるという問題意識が、ここに表れている。内閣府・第1回会議

2023年4月14日、統合イノベーション戦略推進会議が「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を決定した。高市氏は当日の会見で、自身がすべての会議に出席して議論したと説明。産業協議会の設立、スタートアップの研究開発支援、安全規制の議論、新興技術への支援、教育プログラムを具体策に挙げた。単に期待を語るだけでなく、産業化に必要な政策手段を束ねようとした点が、後押しの実質である。2023年4月14日会見

2022年9月30日に開催された第1回核融合戦略有識者会議。
第1回核融合戦略有識者会議(2022年9月30日)出典:内閣府ウェブサイト、PDL1.0 · 利用条件

資源の量より、技術の力を重視する

2023年2月28日の第5回核融合戦略有識者会議では、高市担当相は、エネルギーをめぐる国の強みが資源から技術へ移る可能性を語った。資源に恵まれない日本にとって、研究と製造の技術を磨く意味があるという視点だ。これは将来への政策的な見通しであり、エネルギー供給の構造がすでに変わったという実績の説明ではない。第5回会議

2023年2月28日の第5回核融合戦略有識者会議で挨拶する高市早苗・科学技術政策担当大臣(当時)。
第5回核融合戦略有識者会議(2023年2月28日)出典:内閣府ウェブサイト、PDL1.0 · 利用条件

発電を待たずに、日本企業の仕事をつくる

その考え方を理解する手掛かりが、2023年12月26日の会見だ。高市氏は、発電そのものの実現には時間がかかる一方、日本企業が持つ個々の技術を事業につなげ、国内に経済的な利益をもたらしたいという趣旨を述べている。2023年12月26日会見

産業の視点では、完成した発電所を保有することだけが参入の形ではない。研究装置や実証設備に必要な機器、材料、製造、保守などでも企業の役割が生まれる。国内外の開発計画に自社技術を組み込めれば、将来の電力販売に先行して取引の機会を得られる可能性がある。これは発電の成否を楽観視する話ではなく、長期の開発を支える供給網をどう育てるかという論点だ。

見出し写真のJT-60SA中性粒子ビームユニットは、こうした研究設備を支える機器の具体例だ。写真は2024年12月の整備作業を記録したもので、現在の内閣の予算執行を示すものではない。F4Eの設備更新記事

産業協議会から、次の戦略改訂へ

2024年5月には、フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)の設立記念会に出席し、幅広い業界の企業が参加する意義を説明した。同年8月の有識者会議では、産業協議会やムーンショット目標などの環境整備を振り返り、国家戦略改訂の議論開始を表明している。政策形成を一度の戦略決定で終わらせず、次の制度づくりにつなげた経過が確認できる。設立記念会/改訂議論の開始

第7回核融合戦略有識者会議で発言する高市科学技術政策担当相
国家戦略改訂の議論開始(2024年8月20日)出典:内閣府(PDL1.0) · 利用条件

首相としての支援は、研究開発と複数年投資へ

首相としての方針は、内閣府が公開した2025年12月24日の日本成長戦略会議での発言記録でも確認できる。高市首相はフュージョンなど研究開発の難易度が高い成長分野について、研究開発税制を強化すると表明した。資料には、多様な炉型の研究開発と、企業も利用できる施設・設備の整備を進める政府方針も記されている。内閣府公開の会議資料

資金面では、2026年2月12日の政府ワーキンググループで、経済産業省が2025年度補正予算の200億円、3年間の国庫債務負担行為600億円を説明している。さらに、節目となる開発目標の達成状況を踏まえ、5年間で1,000億円規模の支援を見込むとした。単年度の予算額、将来にわたる債務を負担できる枠、支援規模の見通しは、それぞれ異なる。200億円と600億円を単純に足し合わせたり、1,000億円がすでに企業へ支払われたと読んだりすることはできない。第1回WG議事要旨

これらの政策と発言を合わせると、支援の軸は、エネルギーの選択肢を広げる長期投資と、国内の研究・製造基盤を育てる産業政策にあると読み取れる。これは資料から読み取れる政策上の方向性であり、個々の開発計画の成功を保証するものではない。

政権をまたいだ政策。功績と目標は分けて読む

重要なのは、政策のすべてを一人の政治家に帰さないことだ。2023年の初の国家戦略は岸田内閣で決定された。2025年6月4日の改定は石破内閣の時期であり、改定戦略には2030年代の発電実証を目指す方針が記されている。高市氏の継続的な関与は確認できるが、政府、研究機関、大学、企業、国際協力による長年の積み重ねの中に位置付けるのが正確だ。同日の内閣府会議記録/改定戦略

改定に先立つ2025年5月30日の第12回有識者会議には、城内実科学技術政策担当相が出席した。担当する大臣が代わっても、有識者会議で産業化と発電実証への方針を検討する過程が続いた。第12回会議

また、実験装置の運転開始は発電の実証ではない。高市氏が2023年12月に出席したJT-60SAの記念式典は、プラズマ実験装置の運転開始を祝うものだった。装置の目的はITER支援、原型炉へ向けた研究、人材育成であり、そこで商用電力供給が始まったわけではない。JT-60SA記念式典

第12回核融合戦略有識者会議で発言する城内実科学技術政策担当相
戦略改定を審議する城内担当相(2025年5月30日)出典:内閣府ウェブサイト、PDL1.0 · 利用条件

企業が見るべきは、政策の次に動く実務

企業にとって、政治の継続的な後押しは、参入を検討する際の重要な材料になる。ただし、それだけで採算や受注が保証されるわけではない。確認すべきは、公募の対象、採択条件、開発目標、実際の設備調達、試験施設へのアクセス、安全確保の要件、そして将来の顧客である。

高市首相の支援を評価するなら、期待の強さだけでなく、企業が技術を試し、人を育て、顧客を獲得できる条件をどこまで整えたかを見る必要がある。フュージョンを産業として育てる政策の意味は、未来の発電への期待を、検証可能な研究開発と足元の事業機会へつなぐ点にある。成果は今後の実証と事業の進展で確かめていくことになる。

主な経過

  • 2022年9月:高市科学技術政策担当相が第1回核融合戦略有識者会議に出席
  • 2023年4月:岸田内閣で初の国家戦略を決定
  • 2024年5月:J-Fusion設立記念会に出席
  • 2024年8月:国家戦略改訂の議論開始
  • 2025年6月:石破内閣で国家戦略改定、2030年代の発電実証を目標に
  • 2025~2026年:高市内閣で研究開発・実証支援を推進
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