核融合の燃料を、もう一度使う。ITERのトリチウムプラントから見える仕事

燃料を送り込むだけでは核融合装置は動かない。未反応燃料を回収し、分離・貯蔵して再利用するITERの設備から、化学プロセスや機器製造の企業が関わる仕事を整理する。

FUSION INDUSTRY掲載日 2026-10-12更新 2026-10-12
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韓国の燃料貯蔵・供給技術の試験設備に並ぶグローブボックス
燃料貯蔵・供給の試験設備(2013年1月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

THE TAKE

核融合への参入を考える化学・機器企業が、燃料回収の設備範囲と担当主体を理解するため。

WHY IT MATTERS

核融合への参入を考える化学・機器企業が、燃料回収の設備範囲と担当主体を理解するため。

核融合の燃料は、装置へ入れたら終わりではない。反応しなかった燃料を取り出し、不純物を除いて、もう一度使える状態へ戻す設備が必要になる。ITERのトリチウムプラントを例に、化学プロセスや機器製造の企業が関わる「燃料を循環させる仕事」を見ていこう。

トリチウムを、回収して再び使う

トリチウムは水素の放射性同位体で、日本語では三重水素とも呼ばれる。ITERが将来の実験で使うのは、重水素とトリチウムを組み合わせた燃料だ。プラズマへ送り込んだ燃料の全てが一度に反応するわけではなく、排気には未反応の燃料、反応で生じたヘリウム、不純物が混ざる。

ITERの2023年6月12日の解説は、この排気から燃料を回収する機能を六つに整理している。排ガスの処理、同位体の分離、貯蔵と供給、気体からのトリチウム除去、水からの回収、そして成分分析だ。これらをつなぎ、燃料を再利用する仕組みが燃料サイクルである。ITERの燃料処理の解説

ここでいう同位体は、同じ元素で中性子の数が異なる原子のこと。水素という一つの名前でまとめず、重水素とトリチウムを必要な組成へ整える工程がある。

気体だけでなく、水も処理の対象になる

トリチウムを扱う設備では、気体の流れだけを追えばよいわけではない。水に含まれるトリチウムを回収する系統も必要だ。「除去」と呼んでいても、単に捨てるのではなく、回収した燃料を再び利用する工程につながる。

ITERは2015年4月3日、水のトリチウム除去設備に使う非常用タンク2基が現地へ届いたと発表した。容量は各100立方メートル。写真はこの時の搬入記録であり、燃料サイクル全体が運転を始めたことを示すものではない。非常用タンクの搬入報告

プラント企業にとっては、通常運転で流れる物質と、通常とは異なる状態で受け止める物質を分けて考えることが重要になる。容量や接続先を決めるには、運転条件だけでなく、設備の安全設計との整合も必要だ。

ITERへ搬入された水のトリチウム除去設備用の非常用タンク
非常用タンクの搬入(2015年4月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

貯蔵設備は、建物との一体設計になる

2016年3月のITERの設置報告は、建物の工事と並行して、タンクの設計や固定位置を詰めた事例を紹介している。対象は、設置後には取り出せなくなる「キャプティブ機器」で、安全上重要な機器にも位置付けられた。トカマク複合建屋へのタンク設置

こうした機器は、単体の寸法や性能が満たされるだけでは十分ではない。建物の構造、固定部、配管の接続、点検や保守の考え方を、早い段階で合わせる必要がある。後から交換しにくい部品ほど、設計の取り合いが事業上の重要な条件になる。

燃料そのものの貯蔵にも専用技術がある。2013年1月14日のITER記事は、水素同位体を金属に吸収させ、必要に応じて取り出す貯蔵方式の開発を紹介した。冒頭の写真は韓国側の当時の試験設備で、グローブボックスと呼ぶ囲いの内部で機器を扱っている。貯蔵・供給設備の開発記録

建設中のトリチウム建屋に設置される貯留タンク
貯留タンクの設置(2016年3月公開)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

設計から製造へ、複数の担当をつなぐ

ITERが2026年9月21日に発表した第3回トリチウムプラント会合は、同月15〜18日に開催された。報告によると、各システムは最終設計段階に到達し、一部機器の製作・設置が進んでいる。次の段階の機器到着は2028年の予定とされる。これは計画であり、全設備の納入・運転完了ではない。2026年の設計・調達状況

同報告では、日本側の除去設備の詳細設計契約、韓国側の貯蔵・供給系の契約、米国側の排気処理、欧州側の同位体分離・水処理などが紹介された。会合では弁や計装機器の適格性確認を協調して進めることも議論されたという。

企業の提案先を考える際には、燃料サイクルを一つの市場として見るだけでなく、どの系統の、どの担当へ供給するかまで絞る必要がある。

2026年9月のトリチウムプラント会合の参加者
トリチウムプラント会合(2026年9月)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

燃料を「戻す」仕事と「生む」仕事

回収・再利用と、燃料を新たに生み出すことは別の機能だ。ITERのテストブランケットモジュール計画は、リチウムからトリチウムを作る技術を試すもの。将来の発電所で燃料を自給できるかという課題を、回収設備の整備だけで解決したとは言えない。ITERのトリチウム増殖計画

公開事例から考えられる企業の接点は、処理容器、弁、分析機器、閉じ込め設備、機器間の接続設計などだ。これは編集上の考察であり、公募や受注を保証する案内ではない。参入時には、対象物質、要求される安全区分、材料の適合性、検証の範囲、保守条件、発注主体を個別に確かめたい。

核融合を支えるのは、反応が起きる場所だけではない。使い終わった流れから価値ある燃料を取り戻し、安全に次の運転へ渡す化学プラントにも、産業の仕事が広がっている。

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