「核融合」はなぜ「フュージョンエネルギー」と呼ばれるのか 高市氏と2023年国家戦略からたどる
「フュージョンエネルギー」という呼び方を日本の国家戦略に採用した経緯には、当時の科学技術政策担当大臣、高市早苗氏が関わっている。2023年の政府資料は、英米での用語法、核分裂との原理の違い、国内外への発信を理由に挙げている。ただし、学術用語「核融合」の全面的な改称を意味するわけではない。呼称の背景にあるのは、研究開発に加えて産業化を進めるという政策の方向性だ。

THE TAKE
ユーザーが指定した名称の由来を、原典と日付に沿って説明する。ニュースや事業資料で核融合、核融合発電、フュージョンエネルギーをどう読み分けるかという読者の疑問に答える。
WHY IT MATTERS
ユーザーが指定した名称の由来を、原典と日付に沿って説明する。ニュースや事業資料で核融合、核融合発電、フュージョンエネルギーをどう読み分けるかという読者の疑問に答える。
呼び方の理由は、2023年3月の会見にある
高市氏は2023年3月3日の記者会見で、核融合の国家戦略案について説明した。海外で「フュージョン」という呼び方が使われていることに触れ、日本初の核融合の国家戦略を国内外へ発信する観点から、この戦略で同表現を採用したと述べている。対象を「本戦略では」と限定している点が重要だ。
同じ会見では、エネルギー安全保障に加え、関連技術が医療、海洋、宇宙などに展開する可能性にも言及した。「イノベーション戦略」という名称には、発電に向けた研究と、その周辺で生まれる産業を併せて育てる考えが込められている。内閣府・2023年3月3日会見
政府が同年4月14日に決定した正式名称は「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」。決定したのは第15回統合イノベーション戦略推進会議であり、この戦略そのものを「閣議決定」と紹介するのは正確ではない。高市氏は決定当日の会見で、戦略を検討した全ての会議に出席したと説明している。当時の役職は科学技術政策担当大臣である。内閣府・2023年4月14日会見

「核融合発電」と「フュージョンエネルギー」の関係
2023年版の戦略本文は、軽い原子核同士が結び付く核融合と、重い原子核が分かれる核分裂では原理が異なること、英国や米国では学術用語の Nuclear fusion をエネルギー分野で Fusion と呼んでいることを説明する。その上で、核分裂との混同に丁寧に答えながら、戦略内では核融合エネルギーをフュージョンエネルギーと表すとしている。2023年版戦略・本文2ページ
したがって、「核融合発電の正式名称が一斉に変わった」と捉えるより、同じ物理現象を基礎とするエネルギーを、国際的な政策・産業の文脈に合わせて呼んだと理解するのが適切だ。「核融合」は反応、「核融合エネルギー」はその反応が生むエネルギー、「核融合発電」はそれを電力にする利用方法、と分けると整理しやすい。
この呼称には、核分裂との違いを丁寧に伝え、海外とも共通する言葉で政策を発信する役割がある。科学的な説明と国際的な情報発信を組み合わせる考え方であり、用語を使い分ける際にも、反応の仕組みとエネルギーの利用方法を示すことが理解につながる。
見出し写真は、国家戦略の策定より前の2020年に行われたJT-60SAの組立作業だ。日欧の研究協力など、既に積み重ねられてきた研究開発の上に、産業化を進める国家戦略が加わったと見ると、その位置付けが分かりやすい。F4E・JT-60SA組立完了の発表
高市氏の関与は、研究を産業へ広げる過程にある
国家戦略の検討は2023年春に突然始まったわけではない。高市氏は2022年9月13日の会見で、前日に核融合戦略を検討する有識者会議が設置されたと報告していた。研究開発と産業育成の双方を検討し、翌春に戦略をまとめる計画だった。背景には、主要国の政策強化と民間投資の拡大があった。内閣府・2022年9月13日会見
2022年9月30日の初会合から、2023年2月28日の第5回会合へと議論が進んだ。第5回会合の公式記録では、高市氏が官民連携による産業化を強調し、戦略案をまとめた有識者に謝意を伝えたことが確認できる。高市氏の政策上の関与は明確である一方、国家戦略は有識者の議論と政府の決定手続を経た文書として読む必要がある。初会合の記録、第5回会合の記録

2024年、産業協議会と安全確保へ
戦略後の動きにも、産業化への広がりが表れている。2024年3月29日の第6回会合では、産業協議会J-Fusionの設立が報告され、安全確保の基本的な考え方を検討するタスクフォースの開催が決まった。企業の参画と制度の準備が、研究開発と並行して進み始めたのである。第6回会合の記録

2025年の改定、2026年の社会実装へ
2024年7月、高市氏は国家戦略の改定に向けた議論を同年8月から始めると表明した。検討事項には、2030年代の発電実証に向けた工程、技術開発、標準化、サプライチェーン、安全確保が含まれていた。内閣府・2024年7月19日会見
その後、2025年6月4日に国家戦略が改定された。改定版は、世界に先駆けた2030年代の発電実証を目指し、関連産業の基盤を築く方針を掲げる。核融合エネルギーをフュージョンエネルギーと表す考え方も引き継いでいる。ここでいう2030年代は政策目標であり、商用発電の実現が保証された時期と読むべきではない。2025年改定版戦略・本文2、5ページ
2026年4月8日には「フュージョンエネルギーの社会実装に向けた取組の在り方」が決定された。本文は、競争力のある発電コスト、実施主体、立地、人材・資金、安全規制、放射化物の管理などを課題として整理する。同年7月には官民投資ロードマップも策定された。2026年10月16日時点の内閣府掲載資料をたどると、戦略の改定と、その後の実行方針・工程の具体化を区別して読むことができる。内閣府・戦略関連資料一覧、社会実装に向けた取組の在り方

名前とともに、技術の説明も必要になる
呼称が変わっても、安全確保に必要な仕事は残る。2025年3月に決定された安全確保の基本的な考え方は、三重水素の閉じ込め、放射線への防護、中性子による材料への影響、放射化した機器の管理などを扱っている。核分裂と原理が異なることと、放射性物質や放射線への対策が必要であることは、併せて伝えるべき内容だ。安全確保の基本的な考え方・本文2、8ページ
企業の発表や政策資料を読む際には、まず対象が反応の研究なのか、機器の開発なのか、発電実証なのかを確かめたい。さらに、発電所を造る企業だけでなく、材料や機器を供給する企業に何が求められるのかを見ると、「産業化」の中身が具体的になる。
高市氏が担当大臣だった2023年、日本の国家戦略でフュージョンエネルギーという表現が採用された。英語に由来する呼び方の背景には、核融合を社会で使えるエネルギーへ育て、その過程で産業をつくるという政策課題がある。今後の進展を測る物差しは、名称の新しさとともに、実証・供給網・安全確保がどこまで具体化したかに置かれる。

- 内閣府・2023年3月3日会見(2026年10月16日確認)
- 内閣府・2023年4月14日会見(2026年10月16日確認)
- 2023年版戦略・本文2ページ(2026年10月16日確認)
- F4E・JT-60SA組立完了の発表(2026年10月16日確認)
- 内閣府・2022年9月13日会見(2026年10月16日確認)
- 初会合の記録(2026年10月16日確認)
- 第5回会合の記録(2026年10月16日確認)
- 第6回会合の記録(2026年10月16日確認)
- 内閣府・2024年7月19日会見(2026年10月16日確認)
- 2025年改定版戦略・本文2、5ページ(2026年10月16日確認)
- 内閣府・戦略関連資料一覧(2026年10月16日確認)
- 社会実装に向けた取組の在り方(2026年10月16日確認)
- 安全確保の基本的な考え方・本文2、8ページ(2026年10月16日確認)
情報基準日:2026-10-16
政策史・用語解説。2022〜2026年の公式会見・会議記録・戦略本文に基づく。過去の出来事を新発表として扱わず、政策目標と実績を区別。呼称の整理と読者向け考察は編集部による。写真は各caption記載時点の記録。