政策としてのフュージョンエネルギー。研究を社会へつなぐ国の仕事

国のフュージョン政策は、将来の電源と産業を育てるために何を担うのか。内閣府・文科省・経産省の分担、研究から発電実証へ進む評価、安全制度と地域の理解を結び付けて解説する。

FUSION INDUSTRY掲載日 2026-10-11更新 2026-10-11
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発表日:2026-08-10

2026年9月12日、ITER本部で各参加極の旗を背に記念撮影する小野田紀美科学技術政策担当相(当時)とITER関係者。
小野田科学技術政策担当相(当時)のITER訪問(2026年9月)写真:Kevin BALLANT / © ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

THE TAKE

省庁名や目標年だけでは見えにくい、研究基盤、企業支援、成果評価、安全制度の接続を理解し、企業が適切な確認先と次の判断条件を選ぶため。

WHY IT MATTERS

省庁名や目標年だけでは見えにくい、研究基盤、企業支援、成果評価、安全制度の接続を理解し、企業が適切な確認先と次の判断条件を選ぶため。

フュージョンエネルギーの社会実装には、設備、安全、人材を支える仕組みが要る。日本の政策はそれらをどう結び付けるのか。政府、研究機関、企業の分担から読み解く。

国が取り組む理由は、将来の電源と産業を育てるため

政府の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」は、2025年6月4日に統合イノベーション戦略推進会議で改定された。背景にあるのは、脱炭素、エネルギー安全保障、技術を基盤とする産業の育成だ。燃料資源への依存を減らす可能性と、国内に蓄積してきた研究・ものづくりの力を将来の事業につなぐ狙いがある。国家戦略

目標は世界に先駆けた2030年代の発電実証である。「実証」は、発電に必要な仕組みを実際に動かして確かめる段階を指す。商用発電所が安定して電気を売り、投資を回収する段階には、費用や運転・保守などの条件も加わる。目標年は、電力供給の達成を保証する日付ではない。

研究開発には長い時間がかかり、試験設備や人材も要る。一社だけで整えるのが難しい共通基盤を支え、研究の成果を産業へ引き継げるようにする。ここに公共政策としての重要な役割がある。

内閣府・文科省・経産省は、何を分担するのか

経産省が2026年2月12日に示した推進体制では、内閣府が全体戦略を取りまとめる司令塔となる。文部科学省は国立研究開発法人や大学を主体とする研究開発を、経済産業省はスタートアップなど民間主体の取組を後押しする。政府内の役割分担

文科省の仕事には、ITER計画、日欧の幅広いアプローチ活動、原型炉に向けた基盤整備、人材育成が含まれる。経産省は発電実証を目指す企業の技術開発を支援し、成果の到達点を確認する。両者をつなぐのが、QST(量子科学技術研究開発機構)、NIFS(核融合科学研究所)、大阪大学レーザー科学研究所などの設備・知見を産業側にも生かす取組だ。

省庁は政策や支援制度を設計し、研究機関は科学的知見と試験能力を蓄積する。企業には機器を製造する役割に加え、将来の設備を設計・建設・運用できる体制づくりが求められる。国際協力の継続も国の役割だ。冒頭とこの節の写真は、2026年9月12日に小野田紀美科学技術政策担当相(当時)がITERを訪れ、進捗を確かめた際のものである。

小野田紀美科学技術政策担当相(当時)が防護具を着け、建設中のITERトカマクの内部を視察する。
建設中のITERを視察(2026年9月12日)写真:Kevin BALLANT / © ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

発電実証へ進む条件を、段階ごとに確かめる

2026年4月8日に有識者会議が決定した「社会実装に向けた取組の在り方」は、「2030年代の発電実証」と、その後に経済性・長期運転性・安全性などを確立する「商用化前発電実証」を整理した。国際共同研究の成果と、企業による多様な方式の挑戦を、どちらも実用化へつなぐ考え方である。社会実装に向けた方針

共通課題には、トリチウムの取扱い、熱を受け止める機器、炉材料、遠隔保守などがある。個別の炉方式が異なっても、試験や評価の知見を共有する意味は大きい。写真のITERトリチウム設備サミットも、ITER、調達機関、企業が設計・製造の課題を持ち寄る国際的な協働の例だ。2026年9月の会合では、機器の標準化や適格性評価の協調も議論された。

一方、支援する発電システムをどの条件で選ぶかは、具体化を進める論点である。8月10日のプロセス検討委員会資料は、技術の進捗、市場性、実施体制を評価する方法を検討課題として示した。マイルストーンとは途中で確かめる到達点、チェック&レビューとは結果を評価し次の進め方を判断する手続だ。8月の検討資料

ITERトリチウム設備サミットに参加した調達機関、企業、ITER関係者が建設現場を背に集まる。
ITERトリチウム設備サミットの参加者(2026年9月)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

安全制度と社会の理解を、開発と同時に育てる

安全の確認は、装置が完成した後に付け加える仕事ではない。2025年3月25日決定の「安全確保の基本的な考え方」は、放射線やトリチウムなどの量、装置の特徴に応じてリスクを評価する方針を示す。安全上の重要度に応じて扱いを変える「グレーデッドアプローチ」や、推進と規制の分離も重視する。安全確保の基本方針

原子力規制委員会も、2026年3月25日の会合で事業者等との意見交換の状況を議題にした。規制委の会合資料

基本方針の決定や意見交換の実施と、新たな法令・基準の成立は区別する必要がある。現行の放射性同位元素等規制法による対応と、将来の装置に必要な制度の検討を、ひとまとめに「規制が完成した」と読むことはできない。

また、設備の立地には地域の理解が欠かせない。期待される便益と残る課題を公開し、質問や懸念を受け止めることが重要だ。大阪・関西万博のITER展示のような科学を知る機会と、具体的な施設計画について地域と話し合う機会には、それぞれ役割がある。

大阪・関西万博のITER展示で、訪問団が仮想現実による施設紹介の説明を受ける。
大阪・関西万博のITER展示(2025年7月13日)© ITER Organization, http://www.iter.org/ · 利用条件

企業は「誰と、何を確かめるか」から考える

参入を検討する企業への実務上の提案は、研究開発、支援制度、安全要件の確認先を分けることだ。性能試験なら研究機関、支援制度なら事業の実施窓口、安全要件なら対象装置の計画と関係当局の検討を追う。

国の方針が示されても、予算措置、公募、採択、設備の利用条件はそれぞれ別に決まる。自社が提供する技術は何か、どの試験データが必要か、次の判断は誰がいつ行うか。政策をこの三つの問いに置き換えると、研究の進展を具体的な事業準備へつなげやすくなる。

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