政策としてのフュージョンエネルギー。研究を社会へつなぐ国の仕事
国のフュージョン政策は、将来の電源と産業を育てるために何を担うのか。内閣府・文科省・経産省の分担、研究から発電実証へ進む評価、安全制度と地域の理解を結び付けて解説する。
発表日:2026-08-10

THE TAKE
省庁名や目標年だけでは見えにくい、研究基盤、企業支援、成果評価、安全制度の接続を理解し、企業が適切な確認先と次の判断条件を選ぶため。
WHY IT MATTERS
省庁名や目標年だけでは見えにくい、研究基盤、企業支援、成果評価、安全制度の接続を理解し、企業が適切な確認先と次の判断条件を選ぶため。
フュージョンエネルギーの社会実装には、設備、安全、人材を支える仕組みが要る。日本の政策はそれらをどう結び付けるのか。政府、研究機関、企業の分担から読み解く。
国が取り組む理由は、将来の電源と産業を育てるため
政府の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」は、2025年6月4日に統合イノベーション戦略推進会議で改定された。背景にあるのは、脱炭素、エネルギー安全保障、技術を基盤とする産業の育成だ。燃料資源への依存を減らす可能性と、国内に蓄積してきた研究・ものづくりの力を将来の事業につなぐ狙いがある。国家戦略
目標は世界に先駆けた2030年代の発電実証である。「実証」は、発電に必要な仕組みを実際に動かして確かめる段階を指す。商用発電所が安定して電気を売り、投資を回収する段階には、費用や運転・保守などの条件も加わる。目標年は、電力供給の達成を保証する日付ではない。
研究開発には長い時間がかかり、試験設備や人材も要る。一社だけで整えるのが難しい共通基盤を支え、研究の成果を産業へ引き継げるようにする。ここに公共政策としての重要な役割がある。
内閣府・文科省・経産省は、何を分担するのか
経産省が2026年2月12日に示した推進体制では、内閣府が全体戦略を取りまとめる司令塔となる。文部科学省は国立研究開発法人や大学を主体とする研究開発を、経済産業省はスタートアップなど民間主体の取組を後押しする。政府内の役割分担
文科省の仕事には、ITER計画、日欧の幅広いアプローチ活動、原型炉に向けた基盤整備、人材育成が含まれる。経産省は発電実証を目指す企業の技術開発を支援し、成果の到達点を確認する。両者をつなぐのが、QST(量子科学技術研究開発機構)、NIFS(核融合科学研究所)、大阪大学レーザー科学研究所などの設備・知見を産業側にも生かす取組だ。
省庁は政策や支援制度を設計し、研究機関は科学的知見と試験能力を蓄積する。企業には機器を製造する役割に加え、将来の設備を設計・建設・運用できる体制づくりが求められる。国際協力の継続も国の役割だ。冒頭とこの節の写真は、2026年9月12日に小野田紀美科学技術政策担当相(当時)がITERを訪れ、進捗を確かめた際のものである。

発電実証へ進む条件を、段階ごとに確かめる
2026年4月8日に有識者会議が決定した「社会実装に向けた取組の在り方」は、「2030年代の発電実証」と、その後に経済性・長期運転性・安全性などを確立する「商用化前発電実証」を整理した。国際共同研究の成果と、企業による多様な方式の挑戦を、どちらも実用化へつなぐ考え方である。社会実装に向けた方針
共通課題には、トリチウムの取扱い、熱を受け止める機器、炉材料、遠隔保守などがある。個別の炉方式が異なっても、試験や評価の知見を共有する意味は大きい。写真のITERトリチウム設備サミットも、ITER、調達機関、企業が設計・製造の課題を持ち寄る国際的な協働の例だ。2026年9月の会合では、機器の標準化や適格性評価の協調も議論された。
一方、支援する発電システムをどの条件で選ぶかは、具体化を進める論点である。8月10日のプロセス検討委員会資料は、技術の進捗、市場性、実施体制を評価する方法を検討課題として示した。マイルストーンとは途中で確かめる到達点、チェック&レビューとは結果を評価し次の進め方を判断する手続だ。8月の検討資料

安全制度と社会の理解を、開発と同時に育てる
安全の確認は、装置が完成した後に付け加える仕事ではない。2025年3月25日決定の「安全確保の基本的な考え方」は、放射線やトリチウムなどの量、装置の特徴に応じてリスクを評価する方針を示す。安全上の重要度に応じて扱いを変える「グレーデッドアプローチ」や、推進と規制の分離も重視する。安全確保の基本方針
原子力規制委員会も、2026年3月25日の会合で事業者等との意見交換の状況を議題にした。規制委の会合資料
基本方針の決定や意見交換の実施と、新たな法令・基準の成立は区別する必要がある。現行の放射性同位元素等規制法による対応と、将来の装置に必要な制度の検討を、ひとまとめに「規制が完成した」と読むことはできない。
また、設備の立地には地域の理解が欠かせない。期待される便益と残る課題を公開し、質問や懸念を受け止めることが重要だ。大阪・関西万博のITER展示のような科学を知る機会と、具体的な施設計画について地域と話し合う機会には、それぞれ役割がある。

企業は「誰と、何を確かめるか」から考える
参入を検討する企業への実務上の提案は、研究開発、支援制度、安全要件の確認先を分けることだ。性能試験なら研究機関、支援制度なら事業の実施窓口、安全要件なら対象装置の計画と関係当局の検討を追う。
国の方針が示されても、予算措置、公募、採択、設備の利用条件はそれぞれ別に決まる。自社が提供する技術は何か、どの試験データが必要か、次の判断は誰がいつ行うか。政策をこの三つの問いに置き換えると、研究の進展を具体的な事業準備へつなげやすくなる。
- 内閣府:フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(2025年6月4日改定)
- 経済産業省:フュージョンエネルギーの実現に向けた経済産業省の取組(2026年2月12日)
- 文部科学省:核融合エネルギー(現行施策案内、2026年10月11日確認)
- 内閣府:フュージョンエネルギーの社会実装に向けた取組の在り方(2026年4月8日決定)
- 内閣府:発電実証に向けた今後の取組の検討について(2026年8月10日)
- 内閣府:フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方(2025年3月25日決定)
- 原子力規制委員会:第67回会合資料一覧(2026年3月25日)
- ITER:小野田科学技術政策担当相(当時)の9月12日訪問(2026年9月21日掲載)
- ITER:トリチウム設備サミット(開催2026年9月15〜18日、9月21日掲載)
- ITER:大阪・関西万博Fusion Energy Day(開催2025年7月13日、7月15日掲載)
情報基準日:2026-10-11
国家戦略の改定と安全確保の基本方針は2025年、社会実装方針は2026年4月のものです。2030年代の発電実証は政策目標であり、商用運転の達成を意味しません。安全に関する基本方針や検討資料と、成立・施行済みの法令は区別する必要があります。